北大荒農場レポート 連載@

‘「北大荒集団」は中国黒龍江省にある、国営農場「黒龍江省農墾総局」の企業名である。’で始まるこのレポートは、当協会の会員である山崎献氏の調査レポートです。

巨大な農場の歴史と現在の姿が淡々とした事実で書かれていて、かえって興味をそそる内容になっています。山崎氏の了解を得て、2回にわたって転載します。

 

「北大荒集団」調査報告                 2001年6月

瀋陽軽工業品輸出入会社顧問 山崎 献

             Email ken-yamasaki@mwe.biglobe.ne.jp

 

 「北大荒集団」は中国黒龍江省にある、国営農場「黒龍江省農墾総局」の企業名である。「集団」はグループ企業を意味し、傘下には、農場以外にも関連する農業製品畜産製品加工工場、更には鉱山、自動車部品製造、製薬、醸造、テレビ局、映画、電業、肥料、農機具、セメントなど各分野の18個の集団及び651個の企業を抱えている。

中国でも最大規模のこの国営農場の概要を下記に箇条書きで紹介したい。

 

1 黒龍江省概要

 中国東北部の一級行政区。省都はハルピン。3地区(綏化、松花江、大興安嶺)、29市、49県,1自治区からなる。

 北は黒龍江、東はウスリー江を境にロシアと国境を接し、西は内モンゴル自治区、南は吉林省と境する。中央部は広大な松花江、嫩江平原でその西、北、東の三面は大興安嶺、小興安嶺ならびに張広才嶺、老爺嶺など長白山地の一部によってとりかこまれ、その外側を黒竜江本流とウスリー江が流れる。

 黒竜江と松花江、ウスリー江の二大支流の合流する一帯は三江平原と呼ばれ、海抜50メートルの低湿地帯を構成する。この一帯は別名「北大荒」即ち北方の大荒野と呼ばれ、本農場命名の由来でもある。今は「北大倉」即ち北方の大穀倉とも呼ばれる。

1.1 面積 45万3000km2

1.2 人口 3701万人(1995年)

1.3 気候 寒温帯大陸性季節風気候

1.3.1  気温 

1.3.1.1  年間平均−0.9℃〜4℃

1.3.1.2  最高 7月20℃〜22℃

1.3.1.3  最低 北端の漠河で1月平均−30.9℃

1.3.1.4  ハルピンの1月平均−19.4℃

1.3.1.5  年間累積気温2600℃〜2900℃

1.3.2  降水量

1.3.2.1  年間平均540ミリ

1.3.2.2  西から東にかけ450ミリ〜600ミリに分布する

1.3.3  日照

1.3.3.1  全年日照数2400〜2900時間

1.3.3.2  内4月〜9月にかけ1500〜1700時間

1.4 交通

1.4.1  鉄道(全国鉄道地図参照)

 総延長は全国一位。密度もかなり高く、北大荒農場がある場所の殆どは鉄道を利用出来る。ハルピン〜大連約900キロメートル。2001年秋には全線電化予定。

 輸送料運賃トンあたり1000キロメートル(ハルピン〜大連)、約1500円。

1.4.2  道路

 大連までの高速道路は、長春、鉄嶺間で一部未開通だが、2001年秋には全線開通の予定。

1.4.3  空路

 新潟とハルピンが姉妹都市を締結している関係で、新潟との間に週二回直行便が飛んでいる。

 国内線は、北京、上海、成都、長沙、武漢、瀋陽等主要都市は飛んでいる。

1.4.4  水路

 ハルピン及び北大荒農場の主要部分が存在する三江平原を流域とする松花江は、水深8メートル。11月から3月までは凍結するが、4月〜10月まで7ヶ月間、1500トン以下の船が航行できる。途中本流の黒龍江(ロシア名アムール川)を通ってロシアの尼港まで約1500キロ、日本海まで直接つながっている。

 

2 北大荒集団 

2.1 沿革

2.1.1  1947年6月13日、毛沢東の命令で公営の機械化農場を試験的に創設し開拓を始める。

 (時代背景、建国二年後)

2.1.2  1954年〜1958年、王震将軍率いる10万の復員将兵が開拓にあたる。当時は「軍墾」と呼ばれ、農民は北方の警備を兼ねた屯田兵だった。いまも各農場に数字がかぶせられ、例えば「850農場」と呼ばれるのは往時の部隊名である。

 (時代背景、1953年7月朝鮮戦争終結)

2.1.3  60年代に入り、周恩来首相の指導の下、更に機械化を推し進める。

 (時代背景、1961年〜1963年大飢饉)

2.1.4  1978年、先進諸国の技術と設備の導入を始める。

 (時代背景、文化大革命の収束)

2.1.5  1983年ケ小平と李鵬が視察。現在の農工商多角経営の体制を確立する。

 (時代背景、改革開放)

2.1.6  1997年、開拓50周年記念式典。江沢民総書記が提言。「発揚北大荒精神、継続開創農墾事業、発展的新局面」。現在に至る。

 

2.2 位置 東経123°40′〜134°40′  北緯40°10′〜50°20′

 

2.3 面積 5万4000平方キロ(四国の3倍弱)

 管轄区域内には、国家及び省の重要自然保護区14地区が含まれる。

 また、500の河川が流れ、200を越える天然の湖沼がある。

 

2.4 農場内土壌分布

 マクロ的にみた土壌分布図によると、この一帯はポドゾル性土と呼ばれる。即ち湿潤寒冷気候帯の北方針葉樹林の下に典型的に発達する土壌。又の名を灰白土と呼ばれるこの土壌は強酸性を示し、養分が極度に欠乏しているため、肥沃度はきわめて低い。

 開拓はこの荒野の土壌を肥沃化することだった。いま耕地の殆どは、有機腐植を多量に含んだ、肥沃な黒土(有機質4〜6%)又は草原土である。

 他に赤褐色土、沼沢土がある。

 

2.5 人口 155.42万人

2.5.1  職員及び工員 73.1万人

 

2.6 規模

2.6.1  農場 国営農場109箇所

2.6.1.1  総面積 54000平方キロ(再掲)

2.6.1.1.1 耕地  20000平方キロ

2.6.1.1.2 荒地  12000平方キロ

2.6.1.1.3 自然林  1100平方キロ

2.6.1.1.4 植林   400平方キロ

2.6.1.1.5 湿原   500平方キロ 

2.6.1.1.6 水面   1000平方キロ 

2.6.1.1.7 その他 19000平方キロ

2.6.1.2  地下伏流水層10乃至200メートル

2.6.2  付帯設備

2.6.2.1  研究所等 農業開拓科学院、測量設計研究院、種苗研究センター他

2.6.2.2  教育設備

2.6.2.2.1  大学 八一農業大学他6校

2.6.2.2.2  専門学校  25校

2.6.2.2.3  職業教育校 63校

2.6.2.2.4  小中学校 1517校

2.6.2.3  医療設備

2.6.2.3.1  農場医院 109ヶ所

2.6.2.3.2  分院    8ヶ所

2.6.2.3.3  衛生防疫 102ヶ所

2.6.2.3.4  保健所   96ヶ所

2.6.2.3.5  計画出産 127ヶ所

2.6.3  機械化 

2.6.3.1  重量運搬車    13000台

2.6.3.2  大中型トラクター 29000台

2.6.3.3  総合収穫機    10000台

2.6.3.4  スプリンクラー   1400台

2.6.3.5  農業用航空機     25機

 農場内の機械化が進み(総動力300万キロワット、機械化率95%)地平線まで見渡せる広大な耕地に、殆ど人影が無い。

 [宸頁匯頭舞謎議輿仇━繁寂爺貧佃儖]

 「この不思議なる土地、人は天に上りたるか、地上に影無し」

 北大荒農場を紹介するパンフレットの、表紙の言葉である。

2.6.4  その他

2.6.4.1  雑穀処理センター 167

2.6.4.2  種苗加工場     46

2.6.4.3  大型市場     113

2.6.4.4  畜産品市場    109

2.6.5  自営設備

2.6.5.1  道路      10331キロメートル

2.6.5.2  配電線     28537キロメートル

2.6.5.3  衛星受信設備  883箇所

2.6.5.4  テレビ放送施設 367箇所

2.6.5.5  光ファイバー  2000キロメートル

2.6.5.6  区域内電話線  2万4千キロメートル

 

2.7 経済能力

2.7.1 総資産     600億元(約9000億円)

2.7.2 年間総生産額  320億元(約4800億円)

2.7.3 利潤       20億元(約 300億円)

2.7.4 納税額      25億元(約 420億円)

 

2.8 生産能力

2.8.1  米(水稲)一毛作晩生 500万トン

2.8.2 大豆、小麦、大麦、唐黍、小豆等雑穀 850万トン

 ヘクタール当たり平均 4700キロ

2.8.3  石炭、電気、セメント 67.1億元(約1000億円)

2.8.4  トラクタ   10000台

2.8.5  化学肥料   20万トン

2.8.6  農薬     1330トン

2.8.7  金      1000キログラム

2.8.8  食用油    3.5万トン

2.8.9  砂糖大根   76万トン

2.8.10 鶏卵     2.4万トン

2.8.11 肉類     10万トン

2.8.12 牛乳     28.6万トン

2.8.13 魚介類    1122万トン             (次号に続く)


次の記事:大連便り 中国結婚事情−−三木 伸哉